お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない
「魔法の勉強、か。なるほど、それで氷結魔法の使い手である僕に……」

 納得した様子でしげしげと頷き、小公爵はふと掛け時計を見上げた。

「勤勉なのはいいことだ」

「あ、ありがとうございます」

「だが、今すぐ時間を取るのは難しい。僕も何かと忙しいからな」

「そうですよね。突然こんなことをお願いしてしまい、申し訳ありません。魔法のことは自分でどうにかします」

 さすがに『そこを何とか!』と食い下がる訳にはいかず、席を立つ。
『無理を言ってしまって、申し訳ない』と思いながら、踵を返そうとすると────

「ちょっと待て」

 ────と、引き止められてしまった。
『えっ?』と声を上げて固まる私の前で、小公爵は眼鏡を押し上げる。

「誰も『教えない』とは言っていない。『今すぐ時間を取るのは難しい』と言っただけだ。明日でもいいなら、時間を取れる」

「ほ、本当ですか?」

「ああ」

 間髪容れずに首を縦に振る小公爵に、私はパッと表情を明るくした。
< 10 / 622 >

この作品をシェア

pagetop