お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない
 二人の足を引っ張ってしまって、なんだか申し訳ない……。

 などと考えている間に、立派な屋敷へ辿り着く。
『これがリエート卿の実家?』と首を傾げる私の前で、男性陣は表情を強ばらせた。

「嘘だろ?屋敷にまで魔物が……」

「とにかく、中へ入ろう。生存者を探し出すんだ」

 サァーッと青ざめるリエート卿に『まだ希望はある』と言い聞かせ、兄は氷の矢を放つ。
近場に居た鹿の魔物を射殺し、周辺の安全を確保した彼は屋敷に侵入した。
玄関の扉の残骸と思しき板を踏みつけながら、彼は辺りを見回す。

「これは……酷いな」

 あちこちに飛び散った血痕や破壊された家具を見つめ、兄はクシャリと顔を歪めた。
『本当に生存者なんて、居るのだろうか』という言葉を必死に呑み込み、後ろを振り返る。
そこには、恐怖と不安に塗れたリエート卿の姿があった。
我々の反応を見て、『希望は薄い』と悟ってしまったのかもしれない。
< 102 / 622 >

この作品をシェア

pagetop