お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない
「立ち話もなんだし、一旦場所を移そう」

 そう言って歩き出した彼は、三階の大広間へ私達を案内してくれた。
そこには他の者達の姿もあり、みんな身を寄せ合って魔物の脅威に耐えている。
ただ、思ったより冷静らしく食料などの物資を分け合う様子が見れた。
なんなら、見ず知らずの私にもクッキーをくれた。
『ありがとうございます』と言って素直に好意を受け取り、私はもぐもぐとクッキーを食べる。

 本当は辞退したかったのだけど、押し切られてしまった。
『子供が無理するんじゃない!』って。

 兄の腕から降りて椅子に座る私は、大人達より手厚い歓迎を受けていた。
ブランケットやらクッションやら貸してもらい、快適に過ごす。

「それで、被害状況は?」

 窓越しに外の様子を確認しながら、兄は尋ねた。
すると、アレン小公爵は間髪容れずにこう答える。

「とりあえず、屋敷内での死者は0。ただ、魔物の討伐に向かった騎士団はどうなっているか分からない。恐らく、全滅はしていないだろうけど……ここまで魔物が押し寄せている状況を考えると、苦戦を強いられているだろうな」

 子供の私を気遣っているのか、明言は避けつつも『何人か死んでいるかもしれない』と匂わせた。
『全員生存の可能性はかなり低い』と踏んでいるアレン小公爵に対し、兄は一つ息を吐く。
とてもじゃないが、楽観なんて出来ない状況に危機感を抱いているらしい。
────と、ここで我慢し切れなくなった様子のリエート卿が口を挟む。

「ち、父上と母上は……!?」
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