お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない
 ホッと息を吐き出す私達の前で、アレン小公爵は窓越しに他の部屋の様子を窺う。
と言っても、確認出来るのはほんの一部だけだが。

「マジで氷漬けになっているな。比喩表現でも、なんでもなく」

 『すげぇ』と素直に感心する彼は、キラキラと目を輝かせた。
『俺にも氷結魔法が使えたらなぁ』と零す彼を前に、兄はそっと目を開ける。

「恐らく、これでしばらく大丈夫かと」

「おう。ありがとな」

「いえ、これくらいお易い御用です」

 照れ隠しのつもりなのか、兄はカチャリと眼鏡を押し上げた。
かと思えば、コホンッと一回咳払いする。

「では、僕は討伐隊に合流して魔物を食い止めてきます。この通り、範囲攻撃なら得意なので」

 『きっとお役に立てる筈です』と申し出る兄に、アレン小公爵は顔色を変えた。
先程までのおちゃらけた雰囲気が嘘のように真剣になり、険しい表情を浮かべる。
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