お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない
「いいか?魔法というのは、自然の理を覆す現象のことだ────と言っても、きっと理解出来ないだろうから、もっと簡単に説明してやる」

 そう言うなり、小公爵は手のひらを上に向け────飴玉サイズの氷をたくさん出現させた。

「今の現象は、自然の理にどう反していると思う?」

「えっと……何もないところから、氷が現れたことでしょうか?」

「正解だ。本来ここには存在しない筈のものが、ここにある。それが魔法」

 『もっと噛み砕いて言うと、材料なしでモノを生産することだ』と述べ、小公爵は氷に息を吹き掛けた。
その瞬間、氷がまるで霧のようにフッと消える。

「ちなみに、今やったのは魔術。魔法と何が違うか、分かるか?」

 こちらの学力を推し量ろうとしているのか、小公爵はレンズ越しに見える月の瞳を光らせた。
『思ったことをそのまま言ってみろ』と促す彼に頷き、私は自分の見解を述べる。

「新たにモノを生産するのではなく、既に存在するモノで異常現象を起こしたこと……ですかね?」

「まあ、概ね正解だ。魔術は既にあるモノに干渉し、操るもの。でも、モノの本質を変えることは出来ない。だから、氷をパンに変えたり爆発させたりすることは不可能だ」

「なるほど」

 小公爵の分かりやすい説明に瞠目しながら、私は相槌を打った。
< 12 / 622 >

この作品をシェア

pagetop