お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない
 オレンジがかった金髪を揺らし辺りを見回す彼の下で、私達は魔物に対峙する。

「リエートのところには、行かせないぞ」

 そう言って、兄は氷結魔法をふるう。
魔力の残量を考慮する必要がないとはいえ、上空に居るリエート卿とお荷物の私を庇いながら戦うのは大変な筈。
でも、彼は至って余裕綽々で……辛そうな素振りはもちろん、弱音を吐くこともなかった。
相変わらず隙のない兄に瞠目する中────上から、『あっ!』という声が降ってくる。

「おい!見つけたぞ!ここから約一キロメートル先、南方向だ!」

 『ウチの旗があるから討伐隊で間違いない!』と叫び、リエート卿はその方角を指さす。
興奮した様子で頬を赤くする彼を前に、兄は一気に周囲の魔物を凍らせた。

「僕達も宙に浮かせろ。上空から、討伐隊のところまで直行する。魔物の対応は引き続き、僕がするからとにかく移動のことだけ考えろ」

「了解!」

 元気よく返事するリエート卿は、勢いよく拳を振り上げた。
すると、その動作に合わせて強風が巻き起こり、私達の体を包み込む。
逸る気持ちを抑え切れないのか、風の扱いは少々雑だが、気になるほどではなかった。
リエート卿に身を任せ、されるがままになっていると、私達の体はやがて彼と同じ高さまで浮き上がる。
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