お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない
 お礼は倍返しで!という我が家のルールに則って行動していただけなんだが……さすがに亡国の秘宝や世界に数点しかないアクセサリーを送り付けるのは、やりすぎたか?

 『これでも、足りないくらいなんだが……』と思案する中、ニクスはカチャリと眼鏡を押し上げる。

「とりあえず、お前の気持ちは分かった。だが、もうお礼は充分だ。クライン公爵夫妻やアレン小公爵からも色々もらっているし、これ以上何かしてもらう謂れはない。だから、さっさと帰れ。僕達は忙しいんだ」

 『しっしっ!』と猫でも追い払うような仕草をして、ニクスはお暇するよう促す。
『お前に構っている時間などない』と言わんばかりの剣幕だが、横に居るリディアはのんびり紅茶を飲んでいた。
『なんだ、この温度差は……?』と首を捻り、俺は前へ視線を戻す。

「何でそんなに忙しいんだ?冬の間は仕事も落ち着く筈だろ?」

「馬鹿か、お前は!仕事ごときで立て込むほど、僕は無能じゃない!」

「じゃあ、何があるんだよ?」

 怪訝な表情を浮かべる俺に対し、ニクスは心底呆れた様子で溜め息を零した。
< 133 / 622 >

この作品をシェア

pagetop