お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない
 実は魔物の大群と戦った際、衣服が汚れてしまいウチで着替えたんだが……その時、リディアの分のドレスだけ直ぐに用意出来なかったんだ。
それで急遽、歳の近い子供を持つ侍女から一時的に貸してもらった。
まあ、大急ぎで街からドレスを調達してきたから着用時間は二時間にも満たないが。
でも、リディアは平民のお古でも気にせず着用していた。

 『緊急事態だから我慢しているという様子ではなかった』と思い返し、更に謎を深める。
リディアのことだから、夫人の助言やデザイナーのオススメに素直に応じるだろうと考えて。
『なら、一体何が原因なんだ?』と疑問に思っていると、リディアが不意に口を開く。

「実は────誰をパートナーにするか、で揉めているんです」

 困ったように笑いながら、リディアはそう話を切り出した。

「当初はお兄様にパートナーをお願いする予定だったんですが、皇室から手紙が届きまして────デビュタントのパーティーに皇太子殿下のパートナーとして、参加してくれないか?と」

 『それで皇室の要請に応じるべきか、悩んでいて……』と零し、リディアは憂いげな表情を浮かべる。
恐らく、皇室とニクスの板挟みになっているのだろう。
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