お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない
 普通の貴族なら、大喜びで皇太子のパートナーの件を引き受けるだろうが……リディアはそうもいかない。
ギフト複数持ちの上、あの魔力量だからな……無闇に動けば、権力争いに巻き込まれる。
実際、皇室は────リディアを未来の皇太子妃に、と考えているだろうし。
じゃなきゃ、パートナーの打診なんてしてこねぇーよ。

 早くもリディアの将来が決定しそうな事態に、俺は少し……いや、かなり不快感を覚えた。
『何で大人達の思惑に振り回されないといけないんだ』と眉を顰め、悶々とする。

「……なあ、断ることって出来ないのか?」

「出来る」

「えっ?それはいくら公爵家といえど、難しいんじゃ……?」

 『皇室の頼みを無下には出来ないって、お母様が……』と零すリディアに、ニクスはチラリと視線を向けた。
かと思えば、月の瞳に見えない闘志を燃やす。

「出来ると言ったら、出来る」

 既に何らかの策を思いついているのか、それとも虚勢か……ニクスはとにかく可能だと言い張った。
妙に目が据わっているように見えるのは、俺の気の所為だと思いたい。

 こいつ……皇太子を殺してでも、リディアのパートナーの座を守り抜きそうだな。
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