お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない
「なら、いい。その代わり、最低三曲は僕と踊れ」

 『一番になれないなら、せめて数で補え』と言い、兄は譲歩する姿勢を見せる。
渋々ながらも態度を軟化させた彼に、私は『もちろんです』と大きく頷いた。
────と、ここで馬車が止まり皇城に到着したことを悟る。
小窓からそっと外の様子を窺うと、金や銀で彩られた建物が目に入った。
『あれが皇城ね』と推察する私の前で、御者が馬車の扉を開ける。
『どうぞ』と促す彼に礼を言い、私と兄は地上へ降り立った。
と同時に、会場である皇城のホールへ向かう。

「あんまり人が居ませんね」

「招待客の大半はもう入場しているからな。ほら、こういうパーティーは爵位の低い者から順番に会場入りするって説明しただろう?」

 『ウチは公爵だから、貴族の中だと一番最後だ』と語り、兄は足を止めた。
どうやら、会場に着いたらしい。
< 143 / 622 >

この作品をシェア

pagetop