お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない
「おい、何の真似だ?」

「はっ?何が?」

「その格好だよ」

「えっ?何かおかしいか?」

「何もおかしくない。だからこそ、おかしいんだよ」

 『どういう風の吹き回しだ?』と訝しみ、兄は眉を顰めた。

「お前は皇室主催のパーティーだからと言って、オシャレしてくるようなタイプじゃないだろ」

「いや、酷い言い草だな」

 『まあ、事実だけど』と苦笑いしつつ、リエート卿はポリポリと頬を掻く。

「今日はリディアの晴れ舞台だから、ちょっと気合い入れたんだよ」

「自分の晴れ舞台でもアクセサリー一つしてこなかったやつが、か?」

「うっ……!ま、まあ……その、リディアは恩人だし?」

「……本当にそれだけか?」

 じーーーっと穴が空くくらいリエート卿を見つめ、兄は詰め寄った。
何か心当たりでもあるのか、『もっと他に理由があるんじゃないか』と疑いに掛かる。
そして、尋問(探り)開始しようと(入れようと)した瞬間────

「ご来場の皆様、静粛に願います!デスタン帝国の小さな太陽、レーヴェン・ロット・デスタン皇太子殿下のご入場です!」

 ────と皇太子の登場を知らされ、扉が開いた。
それにより会話は強制的に打ち切られ、皆一様に姿勢を正す。
先程までの騒がしさが嘘のように会場内は静まり返り、大人子供関係なく(こうべ)を垂れていた。
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