お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない
「な、なんだこれは……魔力量が────半端じゃないぞ」

 これでもかというほど動揺を見せる小公爵は、目を白黒させた。
が、何とか平静を取り戻し、おずおずと手を離す。

「詳しい数値は検査してみないと分からないが、魔力を有しているのは確実だ」

「そうなんですね。調べていただき、ありがとうございます」

 『自分も魔法を使える』という事実に胸躍らせ、私はふわりと柔らかい笑みを浮かべる。
すっかり上機嫌になる私を前に、小公爵はコホンッと一回咳払いした。

「魔法の講義はここまでにしよう。更に詳しく知りたければ、執事にでも頼んで魔法専門の家庭教師を呼んでもらえ」

「はい、分かりました」

 多忙中の小公爵にこれ以上甘えるのは気が引けるため、素直に首を縦に振る。
『本格的に習うのは検査を受けてからでいいかな?』と思いながら背筋を伸ばし、私は優雅にお辞儀した。

「本日は本当にありがとうございました────お兄様(・・・)。おかげで、大変勉強になりました」

「……ああ」

 どこか歯切れの悪い小公爵は、月の瞳に憂いを滲ませる。
そのおかしな態度に、私は違和感を覚えるものの……何が問題なのか分からず、首を傾げた。
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