お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない
 『何かあってもフォローしてくれる』という絶対的安心感に包まれながら、手を重ねる。
そして、促されるまま会場の中央へ戻り、兄とワルツを踊り始めた。

「それで、レーヴェン殿下とは何を話していたんだ?」

 開始早々探りを入れてくる兄は、『余計なことを吹き込まれていないだろうな?』と疑う。
こちらの一挙手一投足も見逃さない勢いで凝視してくる彼を前に、私は苦笑を浮かべた。

「ギフト関連、でしょうか?殿下も複数お持ちのようなので、気になったみたいです」

「他は?」

「他は特に……あっ、そういえば『お人好し』とも言われましたね」

「はぁ?」

 怪訝そうに眉を顰め、困惑する兄は『何がどうしてそうなった?』と頭を捻る。
あまりにも突拍子もない話なので、理解が追いつかないのだろう。

「いや、まあ……確かにリディアは呆れるほどのお人好しだが、何故そんな話に?」

「えっと、話したら少し長くなるんですが────」

 私はお人好しの発言に至る経緯を細かく話し、そっと兄の反応を窺う。
すると、呆れたように笑う彼の姿が目に入った。
どうやら、もうすっかり疑念は晴れたらしく、『そういうことか』と納得している。
『まあ、お前らしいな』と述べる彼を他所に、ワルツはついに五曲目へと差し掛かった。
────が、さすがにちょっと疲れてきたので、一旦休憩へ入ることに。
兄のエスコートで元居た場所へ戻ると、グラスを手にしたリエート卿が駆け寄ってきた。
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