お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない
 『いきなり、どうしたんだろう?』と首を傾げ、サンストーンの瞳を見つめ返した。
────が、上手く本音を隠しているのか、それとも特に何も考えていないのか……これと言って、感情は読み取れない。
『リエート卿のことだから、後者の可能性が高そうね』と考えつつ、私はクルリとターンした。

「はい、凄く楽しいです」

 お世辞でも冗談でもなく、今の生活は本当に楽しい。
もちろん、前世でお世話になった人達と会えないのは寂しいけれど。
でも、溢れんばかりの愛情を注いでくれる家族や一緒に遊んでくれる友人が居るから、孤独を感じることはなかった。
時々無性にパパとママや看護師さんに会いたくなるだけ。

 『せめて、最後にお礼は言いたかった』と考える中、リエート卿がスッと目を細める。

「そうか。なら────その生活を俺が守るよ。リディアには、ずっと笑顔で居てほしいから」

 慈愛に満ち溢れた笑みを零し、リエート卿は誓いを立てた。
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