お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない
 悪ふざけを疑うまでもない真剣な瞳を前に、私はそっと眉尻を下げる。
『彼のことだから、まだアレを気にしているんだろう』と思って。

「あの、リエート卿。クライン公爵家の件なら、もう……」

「あっ、違う違う。別に恩返しがしたくて、言っている訳じゃない。ただ、俺がそうしたいだけ。謂わば、俺のワガママだ」

 『完全に別件』と断言し、リエート卿は私の懸念を否定した。
かと思えば、真剣な顔つきに変わる。

「だから、守らせてほしい。リディアの笑顔も、生活も全部」

 いつもより少し低い声で、リエート卿は再度申し立てた。
緊張しているのか若干表情を強ばらせる彼の前で、私は暫し考え込む。

 ここまで真剣且つ切実に訴え掛けてきているのに、断るのは失礼よね。
でも、ただ施しを受けるだけ……というのも、私の気が済まない。
だから、こうしよう。

 ────と、結論が出たところで私はサンストーンの瞳を真っ直ぐ見つめ返した。
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