お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない
 淑女らしい挨拶で締め、私は前を向いた。
御者に『出発してください』と声を掛け、制服のスカートをギュッと握り締める。
零れ落ちそうになる涙を何とか堪えながら、私は流れる景色をじっと見つめた。
────間もなくしてアントス学園に到着し、馬車から降りる。
と同時に、見覚えのある顔を発見した。それも、二人。

「やっと来たか」

「待ってたぜ、リディア」

 そう言って、こちらにやってきたのは────兄のニクス・ネージュ・グレンジャーと、友人のリエート・ライオネル・クラウンだった。
三年生の証である黄色のネクタイを身につける二人は、その美貌も相まり結構目立っている。
『ここ数年ですっかり、“男の人”になっちゃったものね』と思いつつ、私はニッコリと微笑んだ。

「お久しぶりです、お兄様、リエート卿。お二人とも、また大きくなりましたね」

 成長期なのか顔を合わせる度ぐんぐん背が伸びていく二人を見上げ、私は感心する。
< 164 / 622 >

この作品をシェア

pagetop