お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない
 『そろそろ、二メートルに突入しそう』と考える私を前に、二人は小さく肩を竦めた。

「そのせいで、また制服を新調する羽目になったけどな」

「大きくなれるのは嬉しいけど、こう……一気にガンッと来てほしいよな。色々面倒くせぇ」

 『体の節々も痛むし』とボヤき、リエート卿はガシガシと頭を搔く。
傍から見れば贅沢な悩みだろうが、本人達は至って真剣だった。

 最初の頃は凄く喜んでいたのにね。
身長高い方が格好いいし、戦いにも有利だからって。

 過去の懐かしい記憶を呼び覚まし、私はクスクスと笑う。
『さすがにもうお腹いっぱいなんだろう』と考えながら、顔を上げる。

「そろそろ集合時間ですので、私はこれで。また後でお話しましょう」

 『入学式の前にお二人の顔を見れて良かったです』と言い残し、私は集合場所へ足を向けた。
その瞬間────正門で女子生徒がバランスを崩し、転倒する。
『あら!』と声を漏らす私は慌ててその子の元へ駆け寄り、抱き起こした。

「大丈夫ですか?お怪我は?」

「えっ?」

 困惑した様子でこちらを見つめ、瞬きを繰り返す彼女はポカンと固まっていた。
『訳が分からない』と言わんばかりの表情を浮かべて。
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