お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない
 『普通に過ごしていただけだけど?』と疑問に思う私を前に、ルーシーさんは目を吊り上げた。

「とぼけないでよ!あんなに堂々とフラグを折りまくっていたくせに!」

「フラグ……?と言いますと?具体的にどのような?」

 『フラグ』という言葉自体は知っているものの、シナリオを妨害した覚えはないため、頭を捻る。

 私は攻略対象者達にルーシーさんの悪口を吹き込んだことも、交流を断つよう説得したこともない。
基本的にノータッチ。
だって、私が介入することじゃないと思うし。

 などと考えていると、ルーシーさんがギョッとしたように目を剥く。

「はっ?まさか、無自覚!?シナリオ、知らないの!?」

「すみません……実は『貴方と運命の恋を』をプレイする前に、亡くなってしまったので……パッケージイラストとあらすじしか知らないと言いますか」

「えぇ!?あの神作をプレイしてないの!?それは人生損している!────じゃなくて!」

 前世ヲタクだったのか、ルーシーさんは思わず大きな声を上げてしまうものの、何とか理性を保つ。
そして、雑念を振り払うようにブンブン頭を振ると、私の肩に手を置いた。
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