お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない
 『せっかく勇気を出して教えてくれたんだから』と思い、私は口を噤んだ。
兄に相談したい衝動を必死に抑える私の前で、彼はカチャリと眼鏡を押し上げる。

「大丈夫だ。野外研修には護衛騎士もついてくるし、活動内容だってお遊びと変わらない。おまけに日帰りだから、夕方までには学園へ帰るし……それでも、不安なら僕の傍に居ればいい。というか、ずっと一緒に居ろ」

 不安がる私を見て心配になってしまったのか、兄は『目の届く範囲に居てくれ』と述べた。
野外研修でもお守りする気満々の彼に、私は苦笑を漏らす。

 野外研修は基本自由行動だから、他学年と一緒に居ても問題ないとはいえ、お兄様にベッタリ引っ付くのはちょっと……。
もう十六歳なのに、恥ずかしいというか……。

 十年前から変わらない兄の過保護っぷりに、私はどう反応するべきか迷った。
────と、ここで観音開きの扉が開け放たれる。
< 189 / 622 >

この作品をシェア

pagetop