お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない
「揉めている?神殿に身分は関係ないだろう?」

「あー、違う違う。そっち方面で、揉めている訳じゃない。むしろ、その逆。取り合いみたいになってて、揉めているんだ。どこの養子にするかとか、誰と結婚するかとか」

 ゲンナリした様子で天井を見上げ、リエート卿は小さく肩を竦めた。

「まあ、神殿側は本人の意思を尊重する姿勢だから、全部適当に聞き流しているけど────」

「────貴族共が無駄に騒いでいるって、訳か」

「そういうこと」

 パチンッと指を鳴らして頷くリエート卿は、『そっとしておいてくれれば、いいのに』と苦笑を漏らす。
彼も一応、神殿関係者なので何か被害を受けたのかもしれない。
聖女候補の仲を取り持ってほしい、とか。
リエート卿の苦労を思い、心の中で『お疲れ様です』と言っていると、不意に兄が顔を上げた。

「じゃあ、わざわざ学園に入れたのは────」

「────とりあえずの時間稼ぎだな」

 カタンッと椅子の前足を床につけ、リエート卿はテーブルに両肘をついた。

「貴族の子供も多く在籍しているから油断は出来ねぇーけど、学園に通っている間は『学業に専念したいので』という魔法の言葉が使える。アントス学園の厳しさや忙しさは周りも理解しているから、無理に養子縁組や縁談を進めることはない筈だ」

 時間稼ぎの意味を説明し、彼はおもむろに腕を組む。
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