お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない
 大きく目を見開いて固まる私は、つい公爵のことを凝視してしまった。
だって、彼は仕事の関係で遠征中だと聞いていたため。
『当分は帰って来れない筈じゃ……?』と頭を捻る私の前で、公爵はこう答える。

「運良く今日だけスケジュールが空いたから、ルーナ達の様子を見に来たんだ!そしたら、こんな騒ぎになっていて……!一体、何があったんだ!?魔力暴走(・・・・)を引き起こすなんて、尋常じゃないぞ!」

「魔力暴走?」

 初めて聞く単語に反応を示す私は、思わず復唱してしまう。
すると、公爵は驚いたようにこちらを見た。
が、『この年齢なら、まだ習っていないか』と納得したように呟く。

「魔力暴走は簡単に言うと、自分の意思に関係なく魔力を垂れ流してしまう状態のことだ。魔力自体に魔法が込められているから、無差別に人や物を攻撃してしまう。その対象には────自分自身も含まれている」

「!?」

 『自分で自分を傷つける』という図式が成り立っていることに、私は心底驚いた。
魔法や魔術が術者自身を傷つけることはない、と勝手に思い込んでいたから。
異世界ファンタジーあるあるのご都合主義なんて、現実では有り得ないのに。
『ちょっと甘く見すぎていたかも……』と反省しつつ、私は吹雪に包まれる小公爵をじっと見つめる。
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