お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない
「そんなの放っておけ」

「でも、皆さん疲れていらっしゃいますし、熱中症にでもなったら……」

「本当に危なくなったら、教師陣が対応する。何より、水分補給は男の役割だ」

 そう言って、兄はある方向を指さした。
促されるままそちらへ目を向けると、女子生徒を介抱する男子生徒の姿が見える。
距離感から察するに、恐らく二人とも初対面だが……なんというか、いい雰囲気だった。

 なるほど。これは疲れた女性を男性が気遣い、仲良くなる……所謂、恋愛イベントなのね。
一種のお見合いパーティーとでも、言うべきかしら。
もし、そうなら私の出る幕はなさそう。

 野外研修の目的も他者との交流を深めることなので、放置を決め込む。
『知らなかったとはいえ、出しゃばってしまった』と反省する中、ポンッと肩を叩かれた。

「よっ」

 聞き覚えのある声に導かれ、後ろを振り返ると────そこには、リエート卿とルーシーさんの姿が。
どうやら、兄の言いつけ通り二人で行動しているらしい。
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