お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない
 ここなら人の出入りも多いため、時間を稼げると踏んだのだろう。
イベントの時、上級生は積極的に一年生と話す習慣……というか、伝統(?)を持っているから。
学年の違う私達が一緒に居ても、違和感を持たれにくい。
────が、やはりリエート卿は目立つのでかなり注目を浴びていた。

「リエート卿、戻らなくていいんですか?」

「ああ。だって、せっかくの野外研修だぜ?リディアとの思い出、作りたいじゃん」

 『俺は今年で卒業だし、今しかないんだよ』と語り、身を屈める。
そして、何かを摘み取った。

「おっ?ラッキー。四葉じゃん」

 私のネックレスと同じクローバーを持ち上げ、リエート卿は身を起こす。
穏やかな表情でこちらを見つめる彼は、私の横髪にそっとクローバーを挿した。
当たり前のように幸運の証をくれる彼に、私は戸惑う。
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