お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない
 パチパチと瞬きを繰り返す彼の前で、リエート卿はそらりと視線を逸らす。
さすがに『無理やりペアを交換してきました!』とは、言えないようだ。
少なからず負い目を感じている様子のリエート卿に、私はクスリと笑みを漏らす。
その刹那────

「やっと、見つけた!」

 ────人混みを掻き分けて、こちらへやってくる兄の姿が見えた。
『血相を変えて』という表現がよく似合う慌てっぷりを見せながら、彼は近づいてくる。
そして、私の肩をガシッと掴み、右へ左へクルクル回した。
とりあえずされるがままになる私を前に、兄は『無事で良かった……』と独り言のように呟き安堵する。

 リエート卿も一緒に居たのに、心配しすぎでは……?
一体、どうしちゃったのかしら?

 過保護にしても度が過ぎている対応に、私は頭を捻る。
『今までこんなことなかったのに』と疑問に思っていると、不意に兄が顔を上げた。
かと思えば、怪訝そうに眉を顰める。
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