お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない
 実際のところ、『間一髪のタイミングで攻略対象者に助けられる』としか、私は聞いていない。
だから、これがシナリオ通りの展開なのかどうか分からない……。
でも、そうじゃない可能性もある以上、じっとしている訳にはいかないわ。
ルーシーさんには申し訳ないけど────全力でシナリオに介入させてもらう。

 『謝罪なら、後でたくさんするから』と心の中で言い、私は決意を固める。
たとえ、ルーシーさんに嫌われようと……恨まれようと必ず助ける、と。
ようやく迷いが消えた私は、真っ直ぐに前を見据えた。

「お兄様、転移魔法の中には人や物を目印にして飛ぶマーキングがありましたよね?」

 クライン公爵家に駆けつける際、使用した魔法を口にすると、兄は一瞬で顔色を変える。
どうやら、私の言わんとしていることを理解したらしい。

「まさかリディア、お前……」

「はい。私も行きます」

 『転移魔法の性質上、そうしないといけませんし』と語り、私は同行を申し出る。
────が、そう簡単に兄から許可を貰える筈もなく……

「危険だ。魔物の時と違って、今度は人間を相手にするかもしれないんだぞ」

 と、反対されてしまった。
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