お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない
「よし、全員リディアの体に触れろ。あと、警戒も忘れるな。今回は座標を上へズラすことが、出来ないからな。あっちの状況にもよるが、下手したら転移早々戦闘になる可能性がある」

 『決して気を抜かないように』と注意を促し、兄は私の腰をそっと抱き寄せた。
多分、両手は他の二人に譲るつもりなんだろう。

 良かった。最悪、髪の毛を掴まれるかも?と思っていたから。
もちろん、緊急事態ということでどこに触れられても我慢するつもりだったけど。

 などと考える中、リエート卿とレーヴェン殿下は私の手をそれぞれ握る。
これで準備万端だ。

「じゃあ、僕の合図で一斉に飛び込め」

 ギュッと私の腰を強く掴み、兄は真っ直ぐ前を向く。
ゲートの向こうで待ち受けている危機を想像しながら、大きく深呼吸した。
逸る気持ちを抑えて冷静になる兄は、恐ろしいほど父に似ている。

「三、二、一────行け!」

 兄の号令(怒号)と共に、私達は迷わずゲートへ飛び込んだ。
万が一に備えて、魔法や剣を準備しながら。

 どうか無事で居て、ルーシーさん……そうじゃないと、私────平静でいられる自信がないわ。
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