お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない
 どことなく危うさを孕んだタンザナイトの瞳に、私はひたすら戸惑う。
リディアと付き合いの長いニクス達も、こういう彼女を見るのは初めてなのか固まっていた。
目を白黒させながら息を呑む私達の前で、リディアは不意に目を細める。

「あぁ、そうか。私────今、凄く怒っているんだわ」

 独り言のようにそう呟いた瞬間、リディアはスッと無表情になる。
氷のような……冷たい雰囲気を漂わせて。

 ビッ……クリした。一瞬────本物のリディアに戻ったのかと思った。
だって、そう勘違いするくらい似ていたから。

 ゲームに出てきたリディアの立ち絵を思い出し、私はキュッと唇を引き結んだ。
────と、ここでリディアが襲ってきた男性へ目を向ける。
その瞬間、私は思い出したかのように息を吸い込んだ。
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