お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない
 ヤバい……動揺し過ぎて、呼吸を忘れていた。

 『ぜぇ……はぁ……』と全力疾走した後のように短い呼吸を繰り返し、私はそろそろと視線を上げる。
すると、強ばった表情のニクス達が目に入った。

「おい、あれ……止めた方がいいんじゃねぇーか?」

「いや、ダメだ」

「なんでだい?早く落ち着かせないと、魔力暴走を引き起こすかもしれないよ?」

 ストップを掛けるニクスに、レーヴェンは『危険だ』と警告する。
今まで喜怒哀楽の怒だけ抜け落ちているんじゃないかと思うほど、怒ってこなかったリディアが初めて怒りを見せたため、危機感を抱いているのだろう。
『あの手のタイプは一度キレると、歯止めが効かない』と。

「だからこそ、ですよ」

「……それは一体、どういう意味だい?」

「リディアは今、ギリギリのところで平静を保っています。そこに我々が介入すれば、精神の均衡を崩しかねない……」

 怪訝そうに眉を顰めるレーヴェンに、ニクスは自分なりの見解を述べた。
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