お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない
 『外で一体、何が起きているんだ……』と思案する中、ニクスはカチャリと眼鏡を押し上げる。

「御者はいい!とりあえず、主犯格だけ連れてこい!特待生に顔を確認させる!」

 御者……?ということは、馬車で逃げようとしていたのか。
道理でリエートが焦る訳だ。

 『生身の人間であれば、余裕で追いつくもんね』と考えていると、リディアがそっと眉尻を下げた。
かと思えば、何かを決心したかのようにニクスの元へ駆け寄る。

「あの、お兄様……お顔の確認はもう少し時間を置いてからでも……」

 私の精神状態を気にかけているのか、リディアは苦言を呈した。
『あんなことが起きた後なのに……』と零す彼女を前に、私はフッと笑みを漏らす。
いついかなる時でも他者を気遣う、その優しさがなんだか擽ったかったから。
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