お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない
 う〜ん……どこかで見たような気が……あっ!

「────モリス令息。神殿で暮らしていた時、何度かお会いしました」

 『今でも手紙が来ますし』と補足しつつ、私は記憶を遡った。

 そういえば、プロポーズ紛いのことは三回くらいされたな。
もちろん、全部スルーしたけど。

 『鈍感女子を装って、やり過ごしていた気が……』と思い返し、私は一つ息を吐く。
だって、こんな蛮行に及ぶタイプには見えなかったから。
どちらかと言うと、いつもオドオドしていて消極的なイメージだった。
『人は見かけによらないってことか』と肩を竦める中、レーヴェンは魔法の蔓で実行犯の男性を縛り上げる。

「とりあえず、彼らの身柄は皇室(こちら)で預かろう。貴族も絡んでいるとなると、学園や神殿だけでは対処し切れないだろうから」

 『力を貸すよ』と言い、レーヴェンは実行犯の男性を引き摺って荷台から降りた。
その際、モリス令息の背中を踏んづけたような気がするが……まあ、見なかったことにしよう。
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