お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない
 『気のせい、気のせい』と自分に言い聞かせる私の前で、レーヴェンは人差し指を空へ向けた。
かと思えば、光の玉のようなものを打ち上げる。
恐らく、信号弾の代わりだろう。

「ご協力、感謝します。でも、その……一応、城まで同行してもいいですか?神殿代表として」

「ああ、構わないよ」

 リエートの申し出を二つ返事で了承し、レーヴェンはこちらを振り返る。
『君達はどうする?』とでも言うように。

「僕はリディアと特待生を連れて、一度学園の方に戻ります。事件の真相や僕らの無事を報告しないといけないので」

 生徒会長としての責務を全うするため、ニクスは犯人達の身柄をレーヴェンに託した。
『あとはよろしくお願いします』と述べる彼に、レーヴェンは笑顔で頷く。

「分かった。ここは私達に任せて、先に行くといい」

「ありがとうございます」

 ニクスは胸元に手を添え、優雅にお辞儀した。
そしてリエートに『しっかりな』と声を掛けると、こちらに向き直る。

「よし、帰るぞ」

 ニクスのこの一言に、私は────目を潤ませた。
無事に帰れるのかと思うと、嬉しくて。
保護されたのだからこれは当然の流れだが、全てを諦めていた私にとっては奇跡みたいなものだった。
ホッとするあまり膝から崩れ落ちそうになるのを必死に堪え、私は前を向く。

「はい!」

 泣き笑いに近い表情で首を縦に振り、私は今ある幸福を噛み締めた。
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