お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない
「てことで、本題に入るわ」

 そう言うが早いか、ルーシーさんはコホンッと一回咳払いした。

「話題は言うまでもなく、『貴方と運命の恋を』のことなんだけど────私、もうシナリオに縛られるのはやめる」

 声高らかにそう宣言するルーシーさんに、私は大きく目を見開いた。

「えっ?よ、よろしいんですか?あんなに拘っていらしたのに……って、様々なフラグを折ってしまった私が言うのもなんですが」

 『こうなったのも、元はと言えば私のせい……?』と考え、責任を感じる。
だって、シナリオに懸けるルーシーさんの想い……というか、熱量は本当に凄かったから。
それを無に帰してしまうのは、なんだか申し訳ない気がする。
オロオロと視線をさまよわせる私の前で、ルーシーさんは一つ息を吐いた。

「いいのよ、もう。どうせ、展開も変わっちゃったし。今更、取り返そうとしたところで上手くいくとは思えないもん。下手したら、前みたいなことになるかもしれないし」

 野外研修のことを指しているのか、ルーシーさんは一瞬だけ表情を暗くする。
が、直ぐ元に戻った。
『あんな奴らさっさと忘れよう』とでも言うように(かぶり)を振り、こちらに目を向ける。
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