お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない
「お兄様が私を心配して下さっているのは、分かります。でも……」

「ダメなものはダメだ」

 またもや私の言葉を遮り、兄は強固に反対してきた。
ここまで頑なになっている彼を見るのは、初めてかもしれない。
どう説得するべきか思い悩んでいると、兄は不意に足を止めた。

「リディア、お前は本当に分かっているのか?相手は魔王なんだぞ?」

 どことなく弱々しい印象を受ける声で、兄は問い掛ける。
微かに肩を震わせながら。

「確実にこれまでのようには、いかない。まず間違いなく苦労するし、下手したら……命だって」

 グッと私の手を握り締め、兄は声にならない声を上げた。
かと思えば、もう一方の手で壁を殴りつける。
幸い、ここには私達しか居ないため多少荒々しい行動を取っても問題ないが……兄に怪我がないか、心配だ。

「お兄様、医務室へ……いえ、一度生徒会室に戻りましょう。まだルーシーさんが居る筈なので、治療を頼めば……」

 途中で口を噤んでしまった私は、思わずたじろぐ。
だって、夕日に照らされた兄の背中が────何故か、とても小さく見えたから。
もう成長期を迎えて、大きくなった筈なのに。
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