お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない
 そっと兄の背中に手を回し、私は目いっぱい抱き締め返した。

「ごめんなさい、お兄様。私はその手を取れません」

「っ……!何故だ……!」

 案の定とでも言うべきか理由を問い質してくる兄に、私はスッと目を細める。
きっと、ここで『お兄様の迷惑になるから』と言っても納得しないだろう。
『そんなのどうでもいい!』と押し切られるに決まっている。
だから────

「私の力が少しでも役に立つなら、助けになりたいと思ったからです。それに戦いから(のが)れられたとしても、諸悪の根源を討つことが出来なければ結局死んでしまいます。なので、冷静に考えて(・・・・・・)ルーシーさんの予言通りに動いた方がいいと判断しました」

 ────と、兄の持論を用いて返答した。
悪戯っぽく微笑む私の前で、兄は目を見開いて固まる。
が、直ぐに呆れたような……困ったような表情を浮かべ、額と額を突き合わせた。

「ったく……生意気になったな、お前も」
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