お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない
 実際ゲームではヒロイン+攻略対象者で魔王を倒しているため、勝率が上がるのは間違いなかった。
なので、私は不満を一旦全部呑み込む。

「分かりました。全員で力を合わせて、頑張りましょう」

 ギュッと手を握り締め、私は『絶対、全員無事で帰ってこよう』と意気込んだ────のが、つい二週間前。
季節はもうすっかり夏へ移り変わり、蒸し暑い日が続いている。
のだが……ここだけ、どうも温度がおかしい。

「────つまり聖女候補殿はたった五人だけで魔王の討伐に挑みたい、と?」

 底冷えするような低い声で、私の父イヴェール・スノウ・グレンジャーは難色を示した。
ゾッとするほど冷たい眼差しをルーシーさんに向け、眉間に深い皺を刻んでいる。
珍しくポーカーフェイスを崩す父の前で、私は『嗚呼……』と項垂れた。
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