お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない

究極の選択

 大人達の反応を見て、兄は唇の片端をつり上げる。
もうすぐ折れることを確信している彼の前で、ノクターン皇帝陛下や父は苦悶していた。
未来予知の通りにする(安全牌を取る)か、リスクを承知で予知に背く(危険牌を取る)か。
これはきっと、凄く難しい問題だろう。
比喩表現でも何でもなく世界の命運が懸かっているため、いい加減な決断を下すことは出来ない。
誤った選択をした時の責任は、計り知れないから。
『どうする?』と視線だけで問い掛け合う大人達を前に、ルーシーさんはふわりと柔らかい笑みを浮かべた。

「皆さんの気持ちは分かります。死地に子供を追いやるような真似、したくないでしょう。ただ、私だって……私達だって、何も考えずに事へ当たる訳ではありません」

 『今すぐ魔王に戦いを挑む訳じゃない』と主張し、ルーシーさんは桜色の瞳に強い意志を宿す。

「まず────少しでも勝率を上げるため、魔王の配下たる四天王を先に討ちます。本来であれば魔王戦の直前に戦う予定ですが、わざわざ連戦というリスクを背負う必要はありません。何より、今なら楽に四天王を討てます」

 『まだ完全に成長し切っていない筈なので』と補足しつつ、ルーシーさんはグルリと周囲を見回した。
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