お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない
 デスタン帝国の中枢を担う者達による謝罪合戦に、ルーシーさんは目を剥いた。
私と同じく庶民感覚が抜けていないのか、大人達の旋毛を見て固まる。
が、何とか平静を保った。
『す、凄い……!』と感激する私を他所に、ルーシーさんは大人達に顔を上げるよう促す。

「いえ、そんな……皆さんのお気持ちはよく分かりますから、どうかお気になさらず。私もちょっとムキになってしまいましたし……なので、お互い今回のことは水に流しましょう」

 『それでは、次回の会議もよろしくお願いします』と言って、ルーシーさんは頭を下げた。
かと思えば、直ぐさま退散する。
きっと、この空気が居た堪れなかったのだろう。
『その気持ち、凄く分かる』と共感を示す中、父はふと扉の方を向いた。

「聖女候補殿は、広い心を持っておられるのだな」

「はい、とっても優しいんですよ。学園でも困った時は助けてくれて、本当に頼りになります」

 ニコニコ笑いながらルーシーさんのことを話す私に、父は目を細める。
そして、嬉しそうな……でも、どこか寂しそうな笑みを浮かべ、『良い友人を持ったな』と述べた。
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