お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない
「ちょっと……悪い冗談は、やめてちょうだい!」

「いいえ、冗談ではありません。ねぇ?公爵様」

 同意を求めるように父へ目をやり、メイドはニッコリ笑う。
突然水を向けられた父はブンブンと首を横に振り、無実を訴えた。

「違う。私の子供ではない。大体、貴様とはルーナ抜きで関わったことなど……」

「あら、覚えてませんか?○月○日の夜!異様なほど、ぐっすり眠れたでしょう?朝起きた時、何か違和感はありませんでしたか?」

 満面の笑みで切り返すメイドに対し、父は柄にもなく面食らう。
未婚時代から母に仕えている使用人ということもあり、対応を決め兼ねているのか迷いを見せた。
かと思えば、僅かに目を見開く。

「違和感……そういえば────肌着の種類が変わっていたような……」

 『あの時は気のせいかと思ったが……』と零し、父は顔を青くした。
プルプルと震える彼の前で、メイドはうっとりとした表情を浮かべる。

「あら、気づいていらしたんですね。嬉しい……実はアレ、私が着替えさせたんですよ。ちょっと汚れてしまったもので……ふふっ」

「なっ……!ふざけるのも大概にしろ!そもそも、子作りなんてすれば当然目を覚ますだろう!」

 『いくら熟睡していても、起きる筈だ!』と主張し、父は身の潔白を叫んだ。
────が、メイドは一切顔色を変えない。
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