お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない
「ゲームのシナリオでは、こう説明されていた。魔物の大群がクライン公爵家を襲い、そのときたまたま不在だった次男だけ助かった、と」

 『領民も合わせて、ほとんど助からなかった』と語り、ルーシーさんは手元に視線を落とした。

「このことをキッカケに、リエートは聖騎士を辞めてクライン公爵家の当主になるんだけど……まるで、人が変わったように暗くなったんだって。多分、家族の死を受け止めきれなかったんだと思う」

 膝の上に置いた手を強く握り締め、ルーシーさんはクシャリと顔を歪める。
溢れる感情を抑え切れないようだ。

「それでアントス学園に入学する頃には、口数も笑顔もすっかり減って……魔王を討つこと(親の仇を討つこと)だけが、生き甲斐になるんだ」

 『ヒロインを好きになった後も、それは変わらない』と言い、ふと顔を上げた。
ルーシーさんは涙で潤んだ桜色の瞳に様々な感情を滲ませ、力なく笑う。
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