お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない
「くそっ……!特待生、本当に四天王の居場所は分からないのか!?」

 苛立たしげに前髪を掻き上げ、兄はルーシーさんに詰め寄る。
『リディアに何かあったら……!』と心配する彼に、ルーシーさんは眉尻を下げた。

「すみません……本当に分からないんです。ただ────生贄となる生徒を研究室に連れていくのは、確実です。現在、アガレスは強化の最終段階に入っており、魔力の豊富な子供を欲していますから。そのため、ターゲットは必死になってアガレスの満足する生贄()を探している筈です」

「確かにその条件なら、リディア嬢が最適だね。隙さえ見せれば、あっさり釣れそうだ」

 小さく肩を竦めるレーヴェン殿下に、リエート卿はコクリと頷く。

「多少のリスクは承知の上で、仕掛けてくるだろうなぁ……あーあ、本当嫌になる」

「……強くなったことをこれほど後悔したことはない」

 『せめて、実力を隠していれば……』とタラレバを話し、兄は小さく肩を落とした。
やり切れないといった表情を浮かべ、壁にそっと寄り掛かる。
と同時に、天井を見上げた。
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