お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない
「確か……本来の未来では、全く別の女子生徒を喰らって覚醒し、さんざん暴れ回ってから逃亡するんだったな?」

「はい。皆さんのガードが固すぎて、リディアを捕えられなかったようです」

 愛想笑いにも似た表情で、ルーシーさんは嘘を並べた。
だって、本来の未来では……いや、シナリオでは強すぎるリディアを恐れて、手が出せなかっただけだから。
でも、それを言うと色々ややこしくなるため誤魔化している。

「そうか……なら、途中までその未来通りに出来ないか?レーヴェン殿下のギフトを使って、ターゲットとその女子生徒を監視すれば……」

「────お兄様」

 咎めるような声色で呼び掛け、私は月の瞳をじっと見つめた。
グッと言葉に詰まる兄の前で、私は何とも言えない表情を浮かべる。
心配ゆえにこのような提案をしているのは、分かっているから。
でも、ここは妹としてきちんと諌めるべきだろう。
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