お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない
「その話は後にしてもらえますか?時間、ないんですけど」

 クイクイッと親指で掛け時計を示し、ルーシーさんは『今、何時か分かる?』と尋ねる。
とても、とても優しい声色で……。
表情だって一応笑顔だが、目は全くと言っていいほど笑ってなかった。
『あっ……これはかなり怒っている』と感じ取り誰もが口を噤む中、ルーシーさんは少しだけ……本当に少しだけ雰囲気を和らげる。

「ご理解頂けたようで、何よりです。では、時間もないので手短に話しますね」

 『時間』という単語を強調して言いつつ、ルーシーさんは一歩前へ出た。

「レーヴェン殿下の役割は、先程話した通りです。リエート様とニクス様は基本待機でお願いします。また、私は出来るだけリディアと一緒に過ごし、隙を作るよう努めます。リディアはひたすら、ターゲットからの接触を待ってちょうだい」

 怪しまれる可能性を危惧しているのか、ルーシーさんは『こっちから接触しないように』と言い聞かせる。
あくまで、それは最終手段にしたいのだろう。
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