お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない
 『それに一度やってみたかったの、こういうやつ』と笑い、私はちょっとワクワクする。
だって、スパイミッションみたいで面白そうだから。
もちろん、命の懸かっていることなのでおふざけ気分でやるつもりはないが。
『でも、興奮するのは仕方ないよね』と思いつつ、私はギュッと手を握った。

「わたくし、完璧に囮役を演じてみせます。なので、皆さんあとは任せました」

 と、意気込んだのはいいものの────まさかこういう展開になると思わず、固まってしまう。
だって、今私の目の前に土下座しているターゲットが居るから。
個室に居るとはいえ、かなり思い切った対応である。
絨毯に頭を擦り付けるターゲットの前で、私は額を押さえた。

 作戦開始三日目にして、食いついてきてくれたのは凄く嬉しい。正直、助かるわ。
でも、こうくるとは思ってなかった。
ここへ連れてこられた当初は『睡眠薬を飲まされるかも』とか、『いきなり、頭を鈍器で殴られるかも』とか思っていたから。
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