お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない
 『いつの間に……!?』と驚く私にそっと触れ、彼はスッと目を細める。
その刹那、景色が変わった。
いや、比喩表現でも何でもなく本当に変わったのだ。それも、瞬きの間に。

 一体、何が……?

 薄暗い空間を見回し、私はケホケホと咳き込む。
カビやホコリの臭いが凄くて。
『地下室か、何か?』と首を傾げながら、私はチラリと後ろを振り返った。
すると、そこには案の定学園長の姿があり……どことなく緊張した面持ちで前を見据えている。
私も釣られるように前へ……というか、奥へ視線を向けた。
と同時に、目を剥く。

 暗くてよく見えないけど、あれは間違いなく────人間じゃない。もちろん、動物でも。

 人型でありながら背中に大きな翼を生やしている男に、私は警戒心を強める。
だって、これはルーシーさんの言っていた魔族の特徴と合致するから。
ということは、彼が────

「生贄を連れて参りました」

 ────四天王アガレス。
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