お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない
「そんな辛気臭い顔すんなって!」

 『大丈夫、大丈夫!』と笑い飛ばし、リエートは右手の手首を噛みちぎる。
と同時に、溢れてきた血を床に垂らした。
ハッとしたように息を呑む特待生とレーヴェン殿下の傍で、リエートは何やら呪文を唱える。
すると────血溜まりの中から、白く美しい剣が姿を現した。

「……聖剣エクスカリバー」

 さすがは『光の乙女』とでも言うべきか、特待生はリエートのギフトを知っているようだ。
口元を押さえて固まる彼女を他所に、リエートはそっと剣を掴む。

「んじゃ、行きますか」

 暗い雰囲気を払拭するためか明るく振る舞い、リエートは例の空間へ近づいた。
かと思えば、大きく振り被る。

「ニクス、殿下、ルーシー!あとは頼んだぜ!」

 そう言うが早いか、リエートは思い切り剣を振り下ろした。
と同時に、隔離された空間が切り裂かれる。
『万物切断』というギフト名に恥じない切れ味を見せる中、レーヴェン殿下の光がリディア達を照らした。
その瞬間、戦闘に熱中していた三人は弾かれたように顔を上げ、放心する。
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