お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない
 やっぱり、やりづらいな……。
獣に近い身のこなしだから動きを読めないし、飛行可能であるが故に行動範囲も広い。
捉え切るのは、難しそうだ。

 『ちょっと趣向を変えるか』と画策していると、アガレスが顔を上げる。
どうやら、氷は粗方食べ終わったらしい。
若干皮膚の剥がれた右腕を前に、僕は少しばかり頬を引き攣らせた。

「本当に空腹なんだな」

「仕上げ段階に至るまで、ずっと絶食状態だったみたいですからね。飢えていても、おかしくありません」

 床に落ちていた研究資料を手に取り、特待生は『ほら』と見せてくる。
促されるまま文章を読み進めていくと、そこには確かに『まだ絶食する必要あり』やら『絶食終了まであと〇日』やら書かれていた。

 なるほど。魔族は最初に食べた生贄から、魔力量や属性などを引き継ぐ習性があるのか。
魔物とは、えらい違いだな。
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