お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない
「リディア?」

 突然の行動に驚き、僕は思わず声を掛ける。
が、リディアは聞こえていないようで一生懸命何かを探していた。
かと思えば、

「あった!」

 と、表情を明るくする。
その手には、包装されたチョコが。

 おい、待て。まさか────

 嫌な予感を覚え、僕は直ぐさまリディアの手を引っ張った。

「やめておけ」

 咎めるような声色でリディアを制止すると、彼女は眉尻を下げる。
凄く申し訳なさそうに。
でも、こちらを見つめるタンザナイトの瞳は真っ直ぐだった。

「お願いします、お兄様」

「絶対にダメだ。第一、あいつの主食は人間だろ」

「それは試してみないと、分かりませんわ。それに────飢えたまま、死んでいくなんてあまりにも可哀想です。せめて、最後にちょっとだけ満たしてあげたいと思うのはそんなにいけないことですか?」

 人類の敵である四天王にまで心を砕くリディアに、僕は口を噤む。
ここで『ダメだ』と言い張るのは簡単だ。
強硬に反対すれば、なんだかんだ彼女は諦めてくれるだろう。
でも、きっと悔いは残る。
一生ソレを抱えて生きていく彼女を思うと、胸が張り裂けそうだ。

 くそっ……僕も大概甘いな。

 『こういう甘やかし方はしたくないんだが』と苛立ちつつ、僕はアガレスへ近づく。
────リディアの手を引いて。
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