お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない
 ただ腹を満たすだけなら、さっきの氷でも良かったんじゃ……?
もしや、『食べ物』として認識していなかったからか?

 などと憶測を立てていると、アガレスが肩の力を抜く。

「ありが、とう」

 凍傷の関係でもう喋ることもままならないのか、声は微かに震えていた。
でも、表情は凄く満足そうで……もうこの世に未練なんて、ないみたいだ。
悪意も敵意も殺意もない様子のアガレスに、僕は複雑な感情を抱く。
『本当にこいつを殺さなければならないのか?』と。

 未来はどうであれ、今は何もしていない。
食事管理さえ、しっかりやれば暴れることもないだろうし……共存出来るんじゃないか?

 お人好しのリディアに感化されたのか、夢物語にも近い考えが脳裏を駆け巡った。
そんなの希望的観測に過ぎないのに。
『もし、何かあっても僕達じゃ責任を取れない』と自分に言い聞かせる中、リディアにそっと手を引かれる。
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