お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない
「お兄様、アガレスを助けることは……」

「────ダ、メだ」

 そう言って、僕より先に反対したのは────他の誰でもない、アガレス本人だった。
今にも割れそうな(崩れそうな)手足を動かし、リディアの手に触れる奴は額を擦り付ける。
まるで、感謝の意を示すかのように。

「お、れは魔王様の命令に……逆ら、えない……命、を……助けてもらった、から……」

 悲しそうに微笑み、アガレスはじっとリディアを見つめた。
何か言いたげな彼女に小さく(かぶり)を振り、そっと目を伏せる。

「そういう契約、なんだ……ごめん……こうなるって……知って、いたら……いや、相手が……魔王様だって……分かって、いたら……あのとき、死を……選んだ、のに……」

 拙い言葉で事情を説明し、アガレスはちょっと名残惜しそうに手を離した。
リディアから距離を取るように後退り、胸元を握り締める。
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