お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない
「だ、から……これ以上間違わない、ように……終わらせてくれ」

 懇願にも近い声色で、アガレスは死を望んだ。
リディアが……いや、僕が躊躇わないように。

「……分かった。楽に逝かせてやる」

 『これ以上悩んでもしょうがない』と割り切り、僕は覚悟を決める。
今にも泣きそうなリディアを一瞥し、アガレスに近づいた。
もう息も絶え絶えといった様子の彼に、僕は手を伸ばす。

「一つ言い忘れていたが、色々暴言を吐いてすまなかった」

 『知らなかったとはいえ、言い過ぎた』と謝罪し、アガレスの胸元に触れた。
『大丈夫』と言う代わりに笑う彼を見据え、僕は小さく深呼吸する。

「安らかに眠れ、アガレス」

 手向けの言葉を述べ、僕は一瞬で────アガレスの心臓を凍りつかせた。
その途端、彼は心肺停止の状態に陥り息絶える。
元々低体温症だったこともあり、苦痛なくあの世へ逝けただろう。
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